「2号暇かい?」
ぶーちゃんばあばの家で、流しの食器を洗っていると後ろから突然声を掛けられた。
当然、ぶーちゃんばあばの声である。
時間は午前8時を少し回ったところ。朝一の野菜出荷に関与していなかった2号は、洗い物が放置されたままの流しで食器を洗っておりました。
「暇ってか何すればいいの?」
経験から何らかの依頼が来ることを察して即座に本題を尋ねると、どうやら朝ご飯用のおにぎりを握っておいて欲しいとの事。
調理師をしていた事もあり今でもちょこちょこ料理を作る2号は、ぶーちゃんばあばが忙しい時に飯炊き係に任命される事がある。まぁ苦手でも嫌でもないので、言われたとおりにおにぎりを作ろうと釜のご飯と焼きのりを確認する。
そして、いつものごとく次のステップで一時停止するのである。野菜は沢山あるものの、おにぎりの具に出来るような物はここの家には多くない。
普段、自分用に2号がここでおにぎりを握る時には、ぶーちゃんばあばが漬けた小粒の梅干しを具材にする。冷蔵庫と戸棚を覗くものの、当然のように具材になるような物はなく、結局いつもの梅干しになる。
その為、今日もいつもの梅干しをと裏口近くの戸棚に向かうと、不思議な光景が目に入る。
ぶーちゃんばあばの梅干しの隣に、大粒の別の梅干しが入った果樹酒用の瓶が置いてあるのである。見た目の印象では、とても新しく漬けた梅干しとは見えなかったので勝手に蓋を開けて味を確かめる。
2号の好みに照らして考えると酸味が少ないのは残念な所ではあるが、十分食べられると判断して瓶から必要な個数を取り出して台所に戻る。
作るのは、じーじと2号の弟である3号、そして時々手伝いに来てくれているバイトさん。そして2-1号分らしい。
2-1号は幼稚園の頃から『塩むすび』派なので梅干しは使わず、その他メンバー分をにぎり皿に並べて用意が出来たところでタイミングよくぶーちゃんばあばが登場したので、梅干しの事を聞いてみる。
2号:ねぇ、裏にあった梅干しって勝手に食べても大丈夫なヤツ?つーか、どこで貰ったの?
ばあば:あぁ、食べても大丈夫なやつだよ。ふじちゃんの梅干しだがね。
2号:ふじちゃん?フジちゃんて?
ばあば:ふじゑさん
2号:マジか!これ、ばーさんが漬けた梅干しなの?
てっきり、どこかで貰ったか、ぶーちゃんばあばが以前漬けた物を引っ張り出してきたものとばかり思っていたら、大ばあば(ぶーちゃんじいじの母)が漬けた梅干しだというではないか。
大ばあばは2号が結婚する2・3年前に90歳で他界した。
そして、生前最後の3年近くは特養に入ってもいたから、健康であった時に漬けた梅干しだとすれば少なくとも15年以上は前のものという事になる。
ぶーちゃんばあばの家は、基本的に捨てられない人達ばかり。
大ばあばの遺品も、じーじの兄弟が形見分けで持ち帰ったもの以外は、ほぼそのまま庭に立つ「はなれ」に当時のまま置かれている。
40半ばを過ぎた2号が未だに初めて見つけるようなガラクタも、定期的に出土される状態である(笑)。まぁそれも、今回のように意外なサプライズとして家族を楽しませてくれるものと考えれば悪くないかも知れない。